関悦史句集『六十億本の回転する曲がつた棒』

 関悦史さんから表記の句集を贈って頂いた。関さんは、俳句では第一回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞を受け、『新撰21』に入集され、評論では第十一回俳句界評論賞、第二十九回現代俳句評論賞佳作を受けられた気鋭の俳人・俳句評論家であることは承知していたが、このたびはじめてゆっくり作品を鑑賞した。
 驚いた。正直言って私にとってはかなり難解なものがあったが、「介護」の句群の凄惨なリアルさには涙が出た。地震の被害も並大抵でなかったことも分かった。
 社会性俳句のあとに大きなうねりとなったあの時代の前衛俳句とは違う。広い文化芸術面での深い造詣を背後にして作品が書かれている。私が理解したうえで、あるいはイメージに行き着いたうえで、共鳴した句を下記に掲げます。
結果的に、黒田杏子さんが選んだ句(帯にある十五句)と偶然重なったのは、次の四句だった。
    逢ひたき人以外とは遇ふ祭かな
    年暮れてわが子のごとく祖母逝かしむ
    人類に空爆のある雑煮かな
    屋根屋根が土が痛がる春の月

 これ以外に極めて難解で前衛的な作品が四百(句集は全部で796句)はあるのだ。天才肌の俳人として、大きな仕事をしてくれるのではなかろうか?

 
画像


ここでは新漢字体を使っています。また数字は句集の頁を示します。

006 鯉幟絡まり垂れて月下なる
008 うすごろも落つる高層団地かな
009 昨日ここはセブンイレブン秋茜
011 宅配ピザのヘッドライトの中しぐれ
    地下道を蒲団引きずる男かな
012 とろとろと歌舞伎の雪は太鼓打つ
013 初参賀あゝうるはしき板ガラス
015 女子高生ら象より光り風の中
017 旧道を祭堤燈浮きゆけり
018 逢ひたき人以外とは遇ふ祭かな
020 地図延ベテ領地女陰ノ形ナス
022 車椅子倒レ庭中女身生エ
027 ツルツルト主役殺メテ紐帰ル
034 白濁の目が松平健ながむ
041 死なす話卓をとんぼの影群れゆき
042 持ち帰りし襁褓にほへり月明り
043 年暮れてわが子のごとく祖母逝かしむ
044 氷より冷たき額撫でにけり
048 あをあをと仮設便所や薪能
    関ヶ原に雲形定規あつまり春
050 ΩからまたⅠを出す尺蠖よ
052 蜜豆にときどきまじる撞木鮫
    月面になびいて旗の愚かさよ
055 小鳥来て姉と名乗りぬ飼ひにけり
057 人類に空爆のある雑煮かな
064 身の中のストーンヘンジ夏の月
    ブルーチーズが虹にかちかち音を立て
066 数千の虫が知らせに来てゐたる
084 うすらひやさはられてゐるうらおもて
    いきいきと軍用機湧く春の泥
085 鯉幟に呑まれてみたき思ひあり
087 飛びゆきし輪ゴムをバナナ思ひ出づ
088 ニライカナイは竹婦人らの巣のやうに
090 烏瓜意識不明の旅をして
    立方体の西瓜のごとき句があまた
092 鮪より電話来たりて家を棄つ
096 節分ひとり納豆のパック投げ済ます
098 東欧の密かに回る薄氷
100 灰色の白みゆきけりあたたかし
105 祖母の口に鮪を運ぶわが遺骨
108 化石化済むまで襖らに取り巻かれ
114 家壊しつ春三月の上がりくる
115 屋根屋根が土が痛がる春の月
117 激震中ラジオが「明日は暖か」と
    鮮しき地割れに赤き落椿
118 天使像瓦礫となりぬ卒業す
120 呆けゐて死なざりしかば花うるさし
122 梅雨に入りて平時相望俳句を詠む
126 出日本記書かるることなし立葵






 

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この記事へのコメント

関悦史
2012年01月13日 22:31
栗林浩様
遅くなりましたが拙句集取り上げていただき、封書までいただいてありがとうございました。公開しているメールアドレスがありますので、今後何かありましたらこちらにご連絡いただければ届きますので。
etsushi.seki@gmail.com

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