大牧広句集『正眼』共鳴句抽出

 大牧広「港」主宰の第八句集『正眼』(平成26年4月、東京四季出版刊行)を鑑賞する機会を得た。氏は83歳になられるが、結社の運営や執筆活動は、相変らず旺盛であられる。
 この句集の氏の自選句は次のとおり。震災句も混じっている。

   正眼の父の遺影に雪が降る
   着ぶくれて震災画面に今も泣く
   東北の旅のポスター遠い蝉
   花すすき下山の刻のきたりけり
   落鮎のために真青な空があり
   建国日波は岸辺を蝕みて
   春夕焼うしろ姿は誰も持つ
   正眼を通す梟には勝てず
   仮の世になぜ本気出す花嵐
   セル着たるころの微風を忘れ得ず
   めつむりて茅の輪くぐれど濁世なり
   被災地にしんじつ廻るかざぐるま
   労働祭赤銅色の日暮れくる
   反骨は死後に褒められ春北風
   父子草風は黙つて吹くばかり
   豆飯や父の生地はダムの底


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 私が選んだ句は次の通り。

023 誰もみなすこしづつ病み冬帽子
024 卵かけごはんや冬へ着々と
025 秋蝶のひらひら山は上機嫌
028 正眼の父の遺影に雪が降る
037 あつあつの牡蠣フライゆゑ生き直す
056 診察券ばかり増えゐて初音せり
071 二回ほど使ひしのみのサングラス
080 秋風や征きたる駅は無人駅
097 廃鶏の目のつぶらなり仏生会
101 蝶生れて山は力を抜きにけり
125 つちふるや夫婦で杖を使ひたる
129 種芋にやさしく土をかけてゆく
156 涼風や義歯を外せばデスマスク
166 六月のかくて終りぬ鯵フライ
179 桐一葉基地の広さのただならず
183 すこしづつ壊れてゆきし秋すだれ

 023、056、125と183に、老いて行く身を詠んでおられる。じっくり自分を見つめておられる句である。
 024、037、166に「食」が出て来る。健康な証左ではないだろうか。卵かけご飯など、懐かしい。牡蠣フライ同様、熱いのがよい。
 071,156は諧謔がある。義歯を外した人の風貌はまさにデスマスクを思わせる。
 筆者のイチオシは次の句である。

101 蝶生れて山は力を抜きにけり

 蝶が生まれた瞬間、泰然たる山が力を抜いたように作者は感じたのである。蝶が生まれる瞬間の近景句は多くあるのだろうが、該句は、小さな命と大きな自然との交響・交歓である。025の〈秋蝶のひらひら山は上機嫌〉も同様なモチーフであり、広角詠に好感を持った。

 大牧先生には、どうぞこれからも末永きご件吟をお願いし、第九句集なども期待したいものであります。

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