細根栞句集『漂泊』共鳴句抽出

                     
 細根栞さんが第二句集『漂泊』を上木された。平成15年から26年までの380句を収めている。平成27年8月、現代俳句協会刊。序文は「遊牧」の塩野谷仁氏。



画像



 氏の自選10句は次の通り。

  叙事詩あり春夕焼の丘があり
  寂光の花は風なり風は花
  蛍袋から青僧がぞろぞろ(*)
  漂泊の風は旅人青山河
  空★→くう★という重さ泰山木の花
  白日の青葉木莵なら逢いにいく
  美しき罠ひとむらの曼珠沙華
  補陀落の一景として露の玉
  鳥渡るころか埴輪の泣くころか(*)
  北天の星よ鎮守の梟よ

 筆者(=栗林)の共鳴句は、実に50句を超えたが、中でも(*)の2句が、氏の自選と重なったのは嬉しい。

  蛍袋から青僧がぞろぞろ(*)

 蛍袋から人が出てくるというありえない「虚」を見事に詩的に映像的に昇華させた。しかも出てくるのが青僧である。兜太の〈梅咲いて庭中に青鮫が来ている〉と同様に、筆者は気に入っている。「蛍袋」に関する句では、別の句〈170 散骨は蛍袋の中がよし〉があるが、「よし」という作者の価値判断が意思的に入っているので、詩的昇華にはまだ少し距離があるような気がした。

  鳥渡るころか埴輪の泣くころか(*)

 そう言われると、埴輪のあの目や口は、泣いているようにも見える。抒情性豊かな句である。「ころか」のリフレインも、「鳥渡る」も成功していると思う。

 他にもたくさんの佳句があるが、17句ほどを持ち味別に括って鑑賞しよう。

① 「実」の世界をユニークな視点からしっかりと描写したもの。

062 一人ずつ起立していく四月かな
106 揚雲雀音楽隊が立ちあがる
173 山青葉して神鶏の放し飼い
200 白鳥の白鳥らしき汚れよう

 一句目は、入学式か、入社式かだろう。希望と緊張の若者たちを想像する。「一人ずつ」とあるので、若者一人一人の表情まで見えて来るようなリアリティがある。
 二句目も同様。楽隊が全員か、あるいはあるパートが、曲のクライマックスに合わせて立ち上がり、演奏するのである。管楽器を受け持つメンバーだったりする。
 三句目。「神鶏の放し飼い」が具体的であり、効いている。筆者は、ふと、伊勢神宮の広い境内を思い出した。色艶見事な神鶏が三々五々ゆったりと遊んでいた。
 四句目。白鳥の汚れようを句にしたのが手柄。美しいとか、声がどうとかという、よくある句でないところが良かった。

② 「実」から出発し、作者自身の感受の世界をそこに見出したもの。

016 壺焼の壺の中から波の音
024 沸点はこめかみにあり蟾蜍
027 大夏野どこかにきっと草の罠
093 冬銀河まではガラスのエレベーター
113 水無月のいたるところに魚の径
163 梅雨深しそろそろ魚になる予感
175 すこしずつ何かが壊れ蟻の列

 三句目。大きな夏の野。はっきりとは見えないのだが、実は「罠」があるのではないかという不安感。夏野の賛歌でないところが良かった。
 四句目。高層ビルのシースルー・エレベーターに乗れば、銀河まで行けるのでは………という感受。決して銀河鉄道のようなメルヘンではなく、現代都市の無機質感がある。
次は、「水無月」と「梅雨深し」の二句。「魚」が出てくる。そんなことはあり得ないとは思いながら、細根さんの感受に引き込まれ、「魚」になったような気がするから不思議。
 最後の句。「すこしずつ壊れて」いく不安感。作者が持っていて、同時に読者も共感する名状し難い不安感でもある。それが「蟻の列」で浮き彫りになる。

③ 景を大掴みに描写し、言い得ているもの。

102 太陽がいっぱい花の種蒔かれ
135 雪やんでいる真夜中の雪景色

 
 一句目は、「花の種蒔かれ」で実に気分の良い向日性の句となった。
 二句目は不思議な句。だが、北国育ちの筆者にはよく分かる。真夜中だから景色は見えないはずなのだが、雪が止んだあとは、薄暗い中にも「雪景色」がよく見える。物の輪郭がゆるやかで、静かで、神秘的に見えたりする。

④ 配合の妙が冴えた句。

029 ががんぼの日暮れメンタルクリニック

「ががんぼ」と「メンタルクリニック」の異質な二物の配合が見事。時間帯としては、やはり「日暮れ」で納得。

⑤ 知的操作の妙。

151 利休にたずねよ春雨の糸の色

 多分、雨の糸の色は「利休鼠」だと………。知的操作が邪魔にならないから不思議。

⑥ そこはかとなく抒情が漂う句。

090 切株は人間が好き冬うらら
176 石舞台までは揃いの藍浴衣

 冬の陽気が良い日なら、切株があれば、人々は腰かけたくなる。切株は切られた恨みなどは持っていない。鬼房の〈切株があり愚直な斧があり〉とは違って、屈折していない作者の人物のよさが、この句には出ているような気がする。勿論、屈折が多くて重い句も、細根さんのこの句集にはあるのだから、一概には言えないが………。
 最後の句。石舞台の近所に宿があったかどうか、筆者は知らないが、少し離れたところからやって来たに違いない。そう思うと、この二人(とは限らないが)の逍遥が、とてもロマンチックに見えてくる。

 楽しい句集を有難う御座いました。


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 4

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い
ナイス

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック