豊里友行句集『地球の音符』十句鑑賞

 沖縄の豊里さんが表記の第二句集を出された(沖縄書房、平成二十七年十二月二十日刊行)。実は、同氏には平成二十三年二月の初めに沖縄市にて会ったことがある。新鋭俳人を取材し雑誌「俳句界」の新鋭シリーズとして掲載するためであった。氏はその十人目のお客さんで、勿論、沖縄ではただ一人だった。最初のお客さんは高柳克弘さんで、三番目が神野紗季さん、最後が山口優夢さんだった。


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 さて、『地球の音符』から筆者が共鳴した句は次の通りだった。

012 鰯雲イラクの柩運んでる
012 蟋蟀が星のさざ波の光源
021 断層も虹も弦なり揚雲雀
022 蛙鳴くそれは銀河の膨張音
028 ケータイの螢烏賊とぶ街は楽器
028 顔のない街に棲むケータイの湖
029 鈴虫が魚網の中で鳴いている
036 密約の核冬薔薇の渦を巻く
039 とたんに凍る啓蟄の不発弾
043 手のひらの宇宙を開く赤ん坊
044 蝌蚪あふれ沖縄戦の余白なし
045 せんそうのもうもどれない蝉の穴
052 終戦のない宿借りの沖縄よ
055 逃げ水がテロも戦も孕んでいる
056 しらさぎが鍵穴のよう埋立地
061 鯉幟雑魚寝親子の爆心地
068 梅干のように強烈我が故郷
070 鳥帰るサザエさんのテレビ点く
072 しゃぼん玉床屋の父の匂いする
072 パパイヤの母の小言も日々たわわ
077 オキナワの空に俎板痕がある
079 たましいが還れず杭になる骨よ
079 英霊と呼ばれ転がる握り飯
083 琉球の航海のよう甘蔗(きび)穂波
084 泡盛の氷河へどっぷり月沈む
085 マンゴー盛る土偶のおっぱいおしりほど
088 三振のカメレオンの目玉泳ぐ
103 向日葵の直球勝負の恋活ける
103 太陽がいっぱい天道虫の恋
105 だきしめたしまはまるごとみなみかぜ
111 日も月も花の器に酔いしれて
112 少年のギブスは恐竜の卵
113 みをゆだねいきるしずくの桜の実
117 こんこんと螢の海の母の咳
119 まんげつにだかれわたくし珊瑚礁
127 ともりだすつきのこだまの月桃咲き
127 しまつつむつきのゆりかご花月桃
132 どの道も祈りの血潮の曼珠沙華
132 逃げ水のこの一本道の夢野ゆく
135 (多行表記)
死者も
         甘蔗(きび)穂波のマラソン
    僕らも

 前半は、社会派的な主張や前衛派的な閃きの句が多く、伝承派的に固まってしまった筆者の読解力が、正直言って及ばない作品が多かった。それが中ほどから、柔らかい感性が迸り出るような、大和言葉の美しさが発揮された句が散見され、また最後部では、新社会派的作品となり、最後は「未定」ばりの多行表記となった。

 これらの中から十句を選んで鑑賞する。

012 鰯雲イラクの柩運んでる
 イラクへの爆撃機が沖縄からも飛んだ筈である。たまに輸送機が沖縄に着陸するのは、兵士の柩を運んできたのであろう。折から鰯雲が浮かんでいた。楸邨の〈鰯雲ひとに告ぐべきことならず〉を思い出す。確かに、柩を運ぶことは、人に告げるに憚れることだろう。

022 蛙鳴くそれは銀河の膨張音
 蛙の鳴き声が「銀河の膨張」する音だという。いま宇宙は非定常状態にあり、どんどんと膨張しつつあるのだそうだ。閃きのある見立ての句。

045 せんそうのもうもどれない蝉の穴
「蝉の穴」は一度使われたら二度と使われない。このモチーフは結構多い。だが、戦争に結びつけたところは、沖縄の豊里氏らしく、良かった。

061 鯉幟雑魚寝親子の爆心地
 鯉幟が沢山泳いでいるのを見て、作者は雑魚寝の親子を想起した。しかも、それが爆心地であるという。世情が落ち着いてからのことと受取れば、「雑魚寝」は平和な庶民の姿。それが、場所としては、広島か長崎の爆心地だという。屈折がある。

072 しゃぼん玉床屋の父の匂いする
 平易な句。豊里氏にこのような平和でノスタルジーに富んだ句を詠む広さがあったことは、筆者にとっては、嬉しいことである。

088 三振のカメレオンの目玉泳ぐ
 奇妙な句。痩せ気味の打者のバットが空を切って三振したとすると、カメレオンとは良く言ったものだ。打者は近視めがねを掛けているのかも。お口直しの一句。こういう句が筆者の好みでもある。

105 だきしめたしまはまるごとみなみかぜ
 沖縄をこよなく愛する作者ならではの句。ひらかな表記が良い。何故か田中裕明の句を思い出した。
  みづうみのみなとのなつのみじかけれ    田中裕明
  
113 みをゆだねいきるしずくの桜の実
119 まんげつにだかれわたくし珊瑚礁
127 しまつつむつきのゆりかご花月桃
 これも同様、新社会派的な豊里氏でない一面が現れた。言ってみれば古いタイプの抒情句である。それが良くないわけではない。むしろ筆者好みである。田吉明(京大名誉教授、「楕円律」発行者)にもこの流れの作品が多く、筆者は愛読している。
  気まぐれの夜の一夜にゐて恋へり   田吉明(楕円律一一五号)
  あの花はわが見るかぎり毒の花
 沖縄の花月桃は美しい。この花を見た人は〈127 しまつつむつきのゆりかご花月桃〉に納得するであろう。
 豊里氏の名誉にために書いておくが、105以降の四句は筆者の好みで選んだのであって、氏の句の大多数は、沖縄のための新社会派的作品であって、沖縄戦を、基地を、集団的自衛権を、声を高くして訴えるものである。

135 (多行表記)
死者も
         甘蔗(きび)穂波のマラソン
    僕らも
 最後に、重信ばりの多行表記句から一句引いた。死者も生者も、沖縄の人々は、三メートルもあるサトウキビの穂波の中を長距離マラソンするごとき営為をなして来た。この文字列の配置が面白く、かつ効果があるように思える。

 参考までに、平成二十三年二月に筆者が豊里氏を取材した後の感想を再掲しておこう。
 
苦悩する真面目な青年である。俳句や写真について、話したいことがたくさんあり、次から次へと言葉が出てくる。それは豊里俳句が饒舌であることに通じているのだが、そこには、どこかでかならず「沖縄」に繋がっているものがある。前衛的で社会性俳句的であって、実は、将来もそうなのだろうか(?)と思って取材したのだった。話していくうちに、開眼・脱皮を心がけている様がよく理解できた。それには、地元の先達や「海程」の先輩の刺激と兜太主宰の一言々々が働いていることを知った。沖縄という遠隔の地にあって、やはり俳句は人と人の接触の上で成長してゆくものだと………いや、離れている土地であるがゆえに、そこへ伝えられてくる言葉が彼に大きく響くのだと知らされた。多行表記やカタカナ表記など、先に何があるか判然としない手法にも挑戦する豊里氏に、まだまだ落ち着く先を探す旅が続くのであろう。

『新撰21』(邑書林)でも豊里氏は取り上げられ、大いに触発され、精進されたと思う。その甲斐もあり、この句集『地球の音符』は、その落ち着き先を見つけつつある証左のように思えた。その一つは叙情性ではなかろうか。

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この記事へのコメント

豊里友行
2016年01月26日 17:49
丁寧な鑑賞ありがとうございます。
さらに精進致します。

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