竹内葉子句集『青』七句鑑賞

「小熊座」所属の竹内葉子さんが句集『青』を上木された。2011年11月11日、ふらんす堂刊行。文庫本の大きさの手軽な句集だから、ポケット入れてどこにでも持って行きながら読める。
帯文は高野ムツオ主宰。次の一句とともに帯にある。 

  戦あるな家鴨水牛蝉しぐれ

   同行したベトナムでの作。人間のみならず、生きとし生けるもの、すべてが平和であるようにとの祈りと
願いがこもる。さらに作者の戦後七十年の歳月も映し出されている。


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 竹内さんの自選十句は次の通り。

  稜線に天使のはしご山笑ふ
  水音よし晩節のよし五月来る
  春光やわれは八十路の手習子
  春疾風兵器国際見本市
  巣燕に銀行軒を許しけり
  海渡る軍馬に草を刈りたりき
  立春大吉詐欺師のシネマ観て帰る
  マンデラ逝く木枯のふと止みし日に
  土筆野やフクシマのこと草のこと
  大寒の戸を乾坤に開け放つ

 80歳台半ばの方の句集とは思えない若々しい力がある。筆者(=栗林)が抽出した句は次の通り。

009 暗きより出されし雛の吐息かな
010 西瓜一つ提げる力のやゝ足らず
015 月天心この穹の際吾子の住む
018 花道に樟脳にほふ村芝居
020 湯に放つ若布緑のあふれけり
024 手拭に酒屋の名あり里神楽
026 釜底の焦げもよろしき蜆飯
032 日向ぼこ死ぬときはこの温さかな
036 胡弓弾きの印籠揺れて風の盆
038 立春大吉背のびして護符を貼る
039 菜種梅雨ことこと煮える大納言
043 膳のもの謹み残す生御魂
056 大地震春のめまひと思ひしに
056 冴返るみちのくへ神狂ひしか
058 巣燕に銀行軒を許しけり
060 海渡る軍馬に草を刈りたりき
067 二日はや洗濯好きの竿の数
068 わたくしに目覚め八十路のサングラス
069 門火焚くそちら如何と問うてみる
071 早稲中稲近江は水のまぶしくて
077 鰯雲われの出自も大海ぞ
081 戦あるな家鴨水牛蝉しぐれ
082 籠枕妣の形に凹みをり

 中から特に気に入った七句に絞って鑑賞しよう。

009 暗きより出されし雛の吐息かな
 今年も雛祭の季節である。箱を開け暗いところから出してやる。雛人形がほっと生きをついたようだ。雛人形に対する愛情を感ずる。当然、人形には買った時の思い出が寄り添っているのである。

018 花道に樟脳にほふ村芝居
 役者が花道を通り過ぎたとき、樟脳の匂いがした。至近距離だったので、あきらかに樟脳と分かった。実にリアルに書けている。衣裳は1年間、大切に仕舞われていたのであろう。この句の手柄は、リアルであることと、伝統を大切にしている土地柄を、思わせる所にあろう。

036 胡弓弾きの印籠揺れて風の盆
 風の盆を見たことのある人なら、この句の雰囲気が分かる。男女の素朴な踊に目をしばし奪われるのだが、そのうち物悲しい胡弓弾きの男の目立たない仕草にも目が行く。夜は更けて行く。

039 菜種梅雨ことこと煮える大納言
 少し肌寒い菜種梅雨の季節。台所では豆を煮ている。ゆっくりと弱火がコツ。「大納言」という名の小豆が良い。うまい句。

056 冴返るみちのくへ神狂ひしか
 三・一一であろう。まさに神がお狂いになられたかとさえ思ったことだった。それほど酷かった。
源実朝の歌〈時により過ぐれば民の歎きなり八大竜王雨止め給へ〉を思い出した。阪神淡路大震災のときも、〈懲らしめにしては神さま度が過ぎる 山藤章二〉があった。神にすら怒りを感じるほどの酷さだった。

069 門火焚くそちら如何と問うてみる
 わが家の門火の準備は整った。親族か親友の家に電話して「そちらはもうできましたか?」って訊いてみる。そうしてお互いに「早いもんだねえ」などと会話を楽しむ。何のことはない日常の延長にあるお盆の心を詠った佳句。

081 戦あるな家鴨水牛蝉しぐれ
 作者がベトナムの旅で詠った句。貧しいかも知れないが、平和で長閑な田園風景が見える。以前、ここに戦争があったとは……。
鬼房も戦争を哀しんだ人だった。次の句を思い出す。
重油浮く入江の寒さ戦あるな
戦あるかと幼な言葉の息白し

 竹内さん、句集『青』有難う御座いました。末永く、ご健吟をお続け下さい。

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