伊丹三樹彦句集『海外俳句縦横』共鳴句抽出

 伊丹三樹彦さんが表記の句集を出された(平成27年3月、本阿弥書店刊行)。伊丹さんの著作は、このところ『写俳選書3―黄土の国びと(中国編)』、『不忘一枚連結便①―写俳亭俳話八十年』、同②など、途切れることなく刊行されている。とても95歳とは思えないエネルギーである。
 さて、この海外詠句集は、ヨーロッパ、カナダ、オセアニア、西アジアからなっている。その句姿は、昔からの「分ち書き」で定型感が残ってはいるが、破調的なのが多い。それよりも特徴的なのは、氏があとがきに「海外詠は難しいと言われるが、季語に縛られるからだ。私は新興俳句出身なので当初から超季派だった」と書くように、季語に拘らず、自由に俳句を書いている。一句一句、その景色を想像しながら、鑑賞すると良いのだろう。ただし、氏の俳句の題材は、各国の庶民の生活ぶりであり、名所旧跡ではない。そこがとりわけ面白い。


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 筆者が共鳴した句群から12句を掲げる。

008 モンマルトルの風呼ぶ白髪 望郷画家
013 ずうっと抱擁 ずうっとシャンソン そんな夜長
020 わたしって綺麗 似顔絵画家と対峙
020 「禁じられた遊び」から弾く河岸のギター

 これら四句はパリであろう。一句目。モンマルトルの丘、サクレクール寺院などがある地域で、貧しい画家が暮らす地域でもある。画家は年老いていて、望郷の念にかられているのであろう。二句目、このような景は、パリならそこここに見られて、如何にもパリだ。四句目は、セーヌの川岸であろう。屋台形式の古本屋や画廊(?)が並んでいる。「禁じられた遊び」は、ナチス・ドイツがパリから郊外へ避難する市民を機銃掃射するところから始まる。パリの石畳にもよく合う景である。

033 レース店 故国に母系家族持つ

 この句は多分ベルギーであろう。市内のいろんなところにレース織物の店がある。美しい街ブルージュにも多かった。

041 鴎追う 双手ひろげの飛べない子
083 鳥市の 鳥よりやさしい 眼で笑う

 カナダの海辺りの景。双手をひろげて子どもが鴎を追っている。それを多分両親が見守っているのであろう。子どもは飛ぶことは出来ないが、嬉々としている。二句目、日本にはない鳥市。観賞用の鳥である。ポルトガルのポルトが有名だと知っているが、筆者もいつか観て見たいと思っている市である。

101 思春期の微笑 着ぐるみ泳ぎのあと
109 ゴーギャンが在らばと 髪にハイビスカス
111 蛇口にも長幼序列 椰子燦々
113 一村を挙げての午餐 亀蒸され
134 かくも優しい微笑呉れるか 旅人木

 これらは西アジアや東南アジアの庶民の暮らしの句である。一句目は、メコン河の景。若い女性が水着ではなく、薄物の普段着のまま、浴沐するのであろう。他の句では僧が出てくるので、仏教国タイであろうか、とにかく田舎であろう。二句目。人懐こくて黒い瞳の黒髪の少女をおもわせる。ハイビスカス=仏桑華が髪に良く似合うはずだ。
 三句目。このような句に土地の人々の、貧しいが礼儀正しい生活ぶりがよく分かる。日本もJICAなどがOADを通して、東南アジアの各国に対し井戸掘りの支援を行っている。きれいな水は健康維持にも欠かせない事業である。
 四句目の亀の料理には驚いた。そういえば、日本にもスッポン料理があった。最後の句、旅人木は扇芭蕉のこと。

 色々な国を旅させて戴きました。多謝。

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